『ラストゲーム 最後の早慶戦』:
Final Cut Studioが開いた
映画制作の新しいワークフロー
役者が演技して、カメラで撮影し、それを編集する。言葉にしてみれば単純に見える映画制作だが、実際にはさまざまな工程が絡み合い、たくさんのスタッフによる共同作業が行われている。最高の作品を作るために、映画制作者達はより効率的でより質の高いテクノロジーを求め続けている。そのため、日々の技術革新がめざましいのがこの分野だ。
『ラストゲーム 最後の早慶戦』の撮影監督を務めた阪本善尚氏
昨年4月に発表された、アップルのFinal Cut Studio2と新コーデックProRes 422は、作業を効率化することでコストの削減と制作期間の短縮を可能にする、画期的なソリューションだ。これらのテクノロジーが実際の映画制作現場でどのように使われたか、現在公開中の映画『ラストゲーム 最後の早慶戦』の事例を紹介しよう。
今回、お話を伺ったのは、撮影監督を務めた阪本善尚氏、ポストプロダクションを手がけた東映ラボ・テック テクニカルコーディネーターの根岸誠氏、編集を務めた蛭田智子氏の3人だ。撮影現場、ラボ、編集という3つの立場から見たFinal Cut Studio導入のメリットはなんだろうか。
フルHD映像を現場で確認
「前回の『男たちの大和』もアップルのシステムを使っていましたが、その当時と大きく変わったのはカメラがフルHDに変わった点ですね。『大和』の時は非圧縮で撮影していたのですが、今回はパナソニックのカメラを使ってAVC-Intraというコーデックで10bit撮影をし、撮影当時はまだベータ版だったProRes 422にコンバートするという手順を踏みました。そうすることによって、10bitフルHDの映像が撮影現場のノートブックでも見られるから、撮影段階から色などをチェックできる。それが画期的で嬉しいことでしたね。」(阪本氏)
そう語るのは、撮影監督を務めた阪本善尚氏だ。阪本氏は日本を代表する撮影監督としてこれまで数々の映画の撮影に参加、新しいテクノロジーを積極的に取り入れることで知られている。『ラストゲーム 最後の早慶戦』も、Final Cut Studio 2がまだベータ段階での撮影だった。
「まだベータ版だったこともあって、最初はいろいろと不安がありましたが、結果として問題はありませんでした。ProRes 422の画質も十分なものでしたし。今回、撮影するところから、最後に展開するところまで、すべてファイルベースでやれました。」(阪本氏)
通常の映画撮影では、フィルムもしくは非圧縮で撮影したものを、ポストプロダクション段階でテープに移し編集者に出してオフライン編集を行い、戻ってきたものを基に再度オンライン編集を行う……といった手順を踏んでいる。今回、『最後の早慶戦』で試みたのは、撮影の段階から編集まで、一貫してファイルベースで行うという手法だった。AVC-Intraで撮られた映像を、ProRes 422に変換しオフライン編集とオンライン編集に用い、最終的にCineon 10bitに変換している。
一貫してファイルベースで作業を行うメリットはどこにあったのだろうか。
ProRes 422の採用で編集作業を短縮
「東映作品のオフライン編集を担当している東映東京撮影所の編集設備は、SD環境が中心なんです。そのため、SDにダウンコンバートしてオフライン用のテープを渡すという手間が、撮影の期間中ずっとあるわけです。物理的にも人手的にも手間がかかりますし、テープダビングのコストと人件費がかかるんですね。それが、今回はテープへのダビングをしなくて済んだので、コストだけじゃなく時間的にも大変メリットがありました。」(根岸氏)
そう語るのは、ポストプロダクションを担当した、東映ラボ・テックの根岸誠氏だ。映画制作におけるポストプロダクションの役割は、まず撮影した素材を編集者が扱える形に変換して渡し、編集し終わったもの受け取ったのち再びEDLに従ってフィルムクオリティのデータを作り上げる、というものだ。撮影側や編集者とは役割が明確に違うため、当然チェックすべき点も大きく異なる。画質の面からProRes 422はどうだったのだろうか。
「どうしても我々の見方としては、良いというよりも、悪くないという見方になってしまうんですが(笑)引き絵などで細かいものが動いているときの見え方で、どうしても圧縮と非圧縮で差が出てしまうのですが、ProRes 422でテストしてみたら思いのほか良くて。もっと目立つんじゃないかと思っていたから、私はこれは使えると思いましたね。」(根岸氏)
そもそも、今回のプロジェクトでは、まずAVC-Intra(H.264)を使った撮影が前提にあったという。だが、AVC-Intraを直接扱えるシステム環境がまだ無い。そこで、AVC-Intraと遜色の無い画質クオリティーを保てて、ファイルサイズがあまり変わらないProRes422HQが候補に挙がったという。テストをしてみたところ、実際のファイルサイズはほぼ同等で画質もほとんど変わらないと感じたという。
ProRes 422の採用により、編集作業の時間削減が可能になったが、編集側の意見としてはどうだろうか。今回編集を担当した蛭田智子氏は、Final Cut Studioを使ったのは初めてに等しかったそうだが、作業において不安はなかっただろうか。
「阪本さんと根岸さんが推薦してくださった編集機だったので、心配はなかったです。Final Cut Pro以前はAvidのシステムを使っていましたが、Final Cut Studioでも編集作業で特にストレスを感じることはありませんでした。」
『ラストゲーム 最後の早慶戦』の編集を務めた蛭田智子氏
オフライン編集において必要とされるのは、データの扱いやすさであり、極端な話、画質よりもデータの取り扱いやすさが優先される。だが、今回はオフライン編集においてもHDクオリティのProRes 422が用いることができた。オフラインとオンラインの双方でProRes 422が用いられたことで、編集から上がってきたプロジェクトをそのままラボの方でリンクすれば、本データがそのまま編集することが可能になり、作業時間を削減することができた。いわば、オフラインの編集がほとんどないに等しかったと言えるだろう。
実は、今回の『最後の早慶戦』では、撮影期間が短いなどさまざまな撮影条件上の制約があり、そのためポストプロダクションでのカラーグレーディングに時間をかける必要があったという。そのためには、編集作業を短くすることが要求されていたが、みごとProRes 422はその要求に合致したと言える。
